ヨハネスブルグサミット通信4 

2002年9月4日(水)

特定非営利活動法人  地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

 

 

期待を裏切ったヨハネスブルグサミット

9月4日午後9時、ヨハネスブルグサミットは「世界実施文書」と「ヨハネスブルグサミット宣言」を採択して閉会しました。

 ヨハネスブルグでなされるべきことは、@「アジェンダ21」のほとんどが何故実施されなかったのかを検証するとともに、Aリオで積み残した環境と貧困、多国籍企業の規制の問題やリオ以降に問題化した環境問題について議論し、今後10年の数値目標をもった具体的な行動計画を策定すること、Bまた、砂漠化防止条約、京都議定書、バイオセーフティ議定書、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約などの環境条約を一刻も早く、確実に実施することを確認すること、Cそしてなによりも、世界貿易機構(WTO)や国際通貨基金(IMF)などが進めているグローバリゼーションより環境問題の解決が優先することを確認することであったはずです。

 しかし残念ながら、ヨハネスブルグサミットはこうした期待を大きく裏切る結果となってしまいました。「アジェンダ21」がなぜ実行されなかったかの検証はまったくなされず、環境問題の解決が貿易の自由化などのルールに優先することの確認はなされませんでした。地球温暖化問題の解決のためにも、持続可能なエネルギーシステムの構築のためにも、また、エネルギーへのアクセスが困難な20億の人々が人間としての基本的なニーズを満たすためにも、切実に求められていた再生可能エネルギーの数値目標については、アメリカや日本が頑強に抵抗し、数値目標なしの合意になってしまいました。

ヨハネスブルグサミットは、世界の市民の期待を大きく裏切ったと言わざるを得ません。

一方で、実施文書に、京都議定書の非批准国に批准を促す旨の記述が入ったこと、いくつかの分野で数値目標が設定されたこと、企業責任を強化するための新たな国際的枠組みを構築する可能性が残されたことなどの前進面もありました。

 

京都議定書の発効に弾み!

ヨハネスブルグサミット通信2に書いたように、京都議定書については8月31日に「京都議定書に批准した国は、まだ批准していない国に対し、適切なタイミングで批准するよう強く促す(strongly urge)」との表現で合意に達していました。

こうした世界実施文書の合意を受けて、9月2日、カナダのクレティエン首相がサミットで演説し、「年末までに(地球温暖化防止のための)京都議定書の批准手続きをする」と表明しました。また、9月3日にはロシアのカシヤノフ首相が、「議定書批准に向け準備しており、極めて近い将来(very near future)に批准できることを期待する」と演説しました。京都議定書は、ロシアが批准すれば発効条件である先進国のCO2排出量の55%を超え発効できることになります。

 

後ろ向きの日本政府の交渉姿勢

日本政府は、京都議定書問題では積極的な役割を果たしましたが、「共通だが差異ある責任」などのリオ原則を「開発分野」にも拡大するかという議論や、再生可能エネルギーの数値目標などではアメリカなどといっしょに後ろ向きの交渉姿勢をとり続け、日本に対する国際的な信頼を大きく損ねる結果となりました。

 

大ブーイングにパウエル米国務長官が立ち往生

 今回のサミットには、アメリカのブッシュ大統領は参加しませんでした。9月4日午後3時頃、代わりに参加したパウエル国務長官の演説が始まるとブーイングの嵐が巻き起こりました。最初は余裕の表情を見せてブーイングにも負けずに演説を続けていましたが、気候変動問題にふれたとたんにまた大ブーイング。さすがのパウエル長官も、顔が強張り、3度にわたってしばらく演説ができず立ち往生してしまいました。

 今回のヨハネスブルグサミットでは、アメリカが強力にすすめるWTOなどの自由貿易と環境条約との関係が焦点の1つでした。パウエル長官がヨハネスブルグサミットの首脳演説で、ブーイングで立ち往生した姿は、今の孤立したアメリカを象徴しているようでした。

 

グローバルピープルフォーラム会場(Nasrec)Part3

浮かれ踊る首相

会議最終日前日の9月3日、小泉首相がナズレックのNGOブースを訪問しました。訪問については予め私たちにも知らされました。CASAブースは、短期参加者の展示物が撤去され、少し寂しい展示のディスプレイをやり直し、わが国の首相の訪問を「歓迎」する準備を整え、残る長期参加者の大半が「お待ち」しておりました。午後3時30分過ぎ、ざわざわと大勢のお付きとテレビクルーに囲まれ小泉首相が満面に笑みをたたえブースに来られました。CASA事務局の福村は、首相と握手をにこやかに交わしました。その後、おそらく二言三言首相の質問をさせていただく予定をしていました。そこを狙いカメラ2台も用意しカメラアングルを決めようとしていたのですが、シャッターを押すひまもなく小泉首相は立ち去ってしまったのです。一同は言葉を失いました。首相滞在時間はおそらく2、3秒です。「ええ?もうこれで終わり?」と思わず声をあげた人もいました。その後、数箇所そのような感じで日本のブースをまわられました。その後小泉首相が一番熱心に時間をとったのは、アフリカのブースです。深刻なアフリカの人々の問題を聞いていたのではなく、カメラの前で楽しくダンスをしていたそうです。パフォーマンス好きの首相とは知っていましたが、あまりの軽薄さにあきれ、怒りがあふれてきました。いったい何のためにNGOブースを訪れたのでしょうか?首相お得意の常套手段、メディアを通じて国民へのアピールとしか考えられません。

今回、小泉首相はNGOとの面会要請を拒否しました。その一方でのパフォーマンスは全く不誠実極まりないものです。

 

 

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