持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)ヨハネスブルグサミット

ヨハネスブルグサミットの準備段階

第1回準備会合(2001/4/30・NY)−サミットに向けた準備プロセスを決定

      (各地域においてWSSDに向けての準備会合が開かれ、アジェンダ21の実施検証が行われる)

 

第2回準備会合(2002/1/28・NY)−アジェンダ21実施促進の為の重要事項を検討

                  −今後の議論の土台となる議長ペーパーを提示

第3回準備会合(2002/3/25・NY) −世界実施文書の草案を準備・検討

 

第4回準備会合(2002/5/27・バリ)−サミット実施計画(世界実施文書)の内容を検討

                  −政治文書の構成要素を検討

 

ヨハネスブルサミットで協議されてきた文書                    

タイプ1

@「政治文書」

 −世界実施文計画での議論を基に、持続可能な開発に向けて各国首脳の決意を示す文書

A「ヨハネスブルグサミット実施計画(ヨハネスブルグ実施文書)」

 −持続可能な社会を実現させるための取組についての合意文書

タイプ2

B「約束文書」

−各界関係主体による具体的なイニシアティブの提案・表明を記載した文書 

 

 

ヨハネスブルグでの文書の内容について

@「政治文書」

      「政治宣言」の構成要素の問題点

A「ヨハネスブルグサミット実施計画」

      ヨハネスブルグサミット実施計画の問題点と課題

      ヨハネスブルグサミット実施計画の論点

B「約束文書」

  ・ 約束文書の内容と論点

 

タイプ1  

@「政治文書」

政治宣言」に盛り込まれるべき要素としては第4回準備会合から閣僚レベルの会議が行われたが、政治宣言の構成要素の提案は議長に託された。現在提案は18項目にまとめられて提出されているが、実施計画での争点となっている部分が集約されているため、相当議論が戦わされることが予想される。

 

◇「政治宣言」の構成要素の問題点

 リオから10年。京都議定書など、国際交渉では重要な前進はあったものの、もっとも進んだ分野とされる気候変動問題でも、ようやく京都議定書の運用ルールの合意ができた段階で実施の段階に至っていない。

 「アジェンダ21」の行動計画はほとんど実行されず、ほとんどの分野で環境と開発に関する状況は悪化した。

 また、グローバリゼーションが急速に進行した結果、途上国と先進国の貧富の差は拡大し、絶対的貧困層は10年前には10億人であったが2000年には15億人に増えている。

 ヨハネスブルグでなされるべきことは、「アジェンダ21」のほとんどが何故実施されなかったのかを検証するとともに、リオで積み残した環境と貧困、多国籍企業の規制の問題やリオ以降に問題化した環境問題について議論し、今後10年の数値目標をもった具体的な行動計画を策定することである。また、京都議定書などの環境条約を一刻も早く、確実に実施することを確認することである。そしてなによりも、世界貿易機構(WTO)や国際通貨基金(IMF)などが進めているグローバリゼーションより、環境問題の解決が優先することが確認されなければならない。

 ところが、提案されている「政治宣言」の構成要素や「世界実施文書」をめぐる議論では、こうした観点がまったく欠如している。以下に、「政治宣言」の構成要素(以下、「構成要素」という)についての問題点を指摘する。

1 地球規模の環境問題に対する基本的視点の欠如

 地球サミットでは、「現代に生きる世代間の公平」、「将来の世代との公平」、「他の生物と間の公平」などが議論され、「共通だが差異ある責任」(第7原則)や「予防原則」(第15原則)などが確認された。現在の時点でリオで確認された原則を再度議論し、再確認することが必要である。

2 地球規模の環境問題の現状に対する認識の欠如

  リオから10年、ほとんどの地球規模の環境問題でその状況が悪化しているにもかかわらず、こうした認識がまったくない。「政治宣言」でまずなされるべきことは、地球規模の環境問題がこの10年、いっそう深刻になり、このままでは「地球の生態学的なバランスが崩れ、その生命をささえる特質が失われて生態学的なカタストロフィー(破局)が到来する」(1989年12月22日第44回国連総会決議)危険性が高まっていることを確認することである。

3 「アジェンダ21」の不履行に対する反省と新たな課題への対応の欠如

  「アジェンダ21」が、ほとんど実行されなかったことへの反省や検証の視点がまったくない。何故実施されなかったのかを検証するとともに、リオで積み残した、多国籍企業の規制の問題やリオ以降に問題化した環境問題について議論し、新たな行動計画を立案すべきことが確認されるべきである。                   

4 グローバリゼーションが貧困の原因となっていることの認識の欠如

 この10年、経済のグローバリゼーションが急速に進行し、その結果、途上国と先進国の貧富の差は拡大し、絶対的貧困層は増大した。こうした貧困問題は環境問題と表裏の関係にある。何故なら、「貧困は人々と自然を収奪することに根ざした現在の開発モデルが生み出したものであり、天然資源の支配に対する権力の集中は貧困と環境破壊とをもたらす」(リオで作成された「貧困に関するNGO条約」)からである。

 政治宣言では、経済のグローバリゼーションより、環境問題の解決が優先することが確認されなければならない。また、「更なる自由化が、持続可能な開発に貢献する」との記述は削除されるべきである。

5 具体的目標の欠如

  「先進国の政府開発援助(ODA)」の項目以外に、ほとんどの分野で具体的な数値目標の記述がない。「アジェンダ21」のほとんどが実行されなかった理由の1つは、具体的な数値目標が設定されていなかったことにあり、今回の政治宣言では少なくとも、具体的な数値目標をもって対策を実行してゆくことの決意を宣言すべきである。

6 多国籍企業への責任についての認識の欠如

  地球規模の環境問題や貧困問題の主要な要因が、多国籍企業の企業活動にあることは今や共通認識である。多国籍企業の規制なくして、地球規模の環境問題や貧困問題の解決はない。しかし、「構成要素」では「企業の説明責任」の記述しかなく、環境破壊や貧困問題の元凶となっている多国籍企業への責任の問題を避けている。多国籍企業の企業活動によって、環境が破壊され、貧困が増大していることを確認し、環境破壊についての企業の原状回復義務と賠償責任を明確に記述すべきである。

7 情報公開や市民の政策決定への参加の視点の欠如

 リオ宣言第10原則は、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心のあるすべての市民が参加することによって最も適切に扱われる」とし、市民が情報にアクセスし、意思決定過程に参加する機会が与えられるべきことを宣言した。リオから10年、この原則は実行されず、市民は直接行動に立ちあがらざるを得なくなっている。1999年のWTO第3回閣僚会議の経験は、市民を無視して国際的な対策の実施は困難なことを示している。リオから10年の多くの経験は、市民こそが環境問題解決に担い手であることを示している。「政治宣言」に、情報公開と市民の政策決定への参加を明確に位置付けるべきである。

 

A「ヨハネスブルグサミット実施計画」

 実施計画は準備会合のメインテーマとして取り上げられ議論されてきたが、第4回準備会合においてもその完全合意は達成されなかった。特に資金、貿易、グローバリゼーションに関しては対立が激しく、そのほとんどが保留状態である。

 

◇ヨハネスブルグサミット実施計画の課題

@     「共通だが差異ある責任」「予防原則」「汚染者負担原則」「情報公開」などリオで確認された原則の再確認。

A     グローバリゼーションと環境との関係について新たな概念を打ち立てること、貧困の撲滅に対する具体的な行動計画の立案。具体的には、WTOなどの貿易ルールに環境保全が優先することの確認。

B     京都議定書、砂漠化防止条約、POPs条約などの国際条約の実行。例えば、気候変動問題をでは、第1約束期間の削減目標を確実に達成することを先進工業国の首脳が確約し、次期約束期間により厳しい削減目標の設定が必要なことを確認すること。

C     「アジェンダ21」の検証と具体化(数値目標の設定と検証・実行手続)。新たな課題への対応。とりわけ、国家を超えた多国籍資本の民主的規制。

D     市民/NGOが政策 決定過程に参加の機会が与えられる新たなガバナンスの確立。

 

◇ヨハネスブルグサミット実施計画案目次

T.序論(パラグラフ1〜5、p1−2)

U.貧困撲滅(パラグラフ6〜12、p2−7)

V.持続可能でない生産・消費形態の変更(パラグラフ13〜22、p7−15)

W.経済・社会開発の基礎となる天然資源の保全と管理(パラグラフ23〜44、p16−34)

X.グローバル化する世界における持続可能な開発(パラグラフ23〜44、p34−36)

Y.健康と持続可能な開発(パラグラフ45、p36−39)

Z.小島嶼開発途上国の持続可能な開発(パラグラフ46〜51、p39−42)

[.アフリカの為の持続可能な開発(パラグラフ56〜65、p42−47)

[.bis 他地域のイニシアティブ(パラグラフ66〜74、p47−49)

\.実施手段(パラグラフ75〜119、p49−65)

].持続可能な開発の為の制度的枠組み(パラグラフ120〜153、p65−77)

 

サミット実施計画の主な論点 (〔 〕内はパラグラフ番号)

1.リオで確認された原則の保留

・「共通だが差異ある責任」(2,13,19,37,75,120,130c)

先進国側は途上国に環境的な借りがあるという差異を強調する途上国側と、先進国との対立なっている。気候変動問題では、先進国側はいずれ途上国も温室効果ガス排出削減目標を持つべきという見解であり、どこまで差異があるといえるのかが問題になっている。

・「予防原則(アプローチ)」(45e)

科学的には明確になっていなくても、将来に影響をもたらすかもしれないものに関して事前に予防するというものであるが、これをアプローチというのか、ニュアンスの強い原則とするのか。遺伝子組み替え(GM)食品をめぐって、将来に影響を及ぼす可能性があるとするEUと、自由貿易を妨げるとして反対する各国との対立になっている。

・「市民の情報へのアクセス、政策決定への参加」(151)

 

2.人権に関する部分

 文章中、人権と文化的差異の尊重(5)、発展の権利を含む人権の保護(56a)、人権と基本的自由の尊重(121d)など、人権と書かれている個所はほとんどが〔 〕でくくられている。

 

3.数値目標と具体的スケジュール

・ミレニアム宣言※1

ミレニアム宣言で合意された数値目標、期限、この目標達成のための資金問題(7,75)

※1 2015年までに1日1ドル以下で暮らす人、飢餓で苦しむ人、飲料水を入手できない人々等の割合を判減する

・エネルギー関連

(非化石)/(新しい)再生可能エネルギーの引き上げ目標について、各国が目標を定めるか否か。2010年までに再生可能エネルギーを 最低15%引き上げる/最低5%引き上げる/最低2%引き上げる/目標を定めない 等の案が出されている(19e)。ここではEUが15%、インドネシアが5%の引き上げを要請、日豪が目標値の設定に反対している。

・現在の生物多様性の減少率を2010年までに(42)、天然資源の減少傾向を2015年までに(23)くい止めるか否か

 他、具体的数値、期限を挙げている個所は多数が未解決のままであり、「促進する」といった表現に置き換えようとする傾向がある。NGOは、目標値を設定しなければこの文書自体の意義が弱められるとして、行動に向けた明確な目標値を掲げるよう要請している。

 

4.パートナーシップ

 実施計画では、パートナーシップと書かれている部分の多くが保留状態になっている。このサミットでパートナーシップを強調しているのはUSと多国籍企業であり、NGO側は条件として「政府が主要な国際条約を批准していること」、「企業の行動に関する国際的なルールが決められていること」、「モニタリングシステムがあること」を強調している。一方、US・日本はパートナーシップのあり方にこのような条件をつけることに反対している。 

 

5.グローバリゼーション

 国連によると、グローバリゼーションの章に関しては93%が未解決のまま保留されている。

・定義について(45)

ここではグローバリゼーションをどう捉えるかという点から全く合意できていない。主な意見として、先進国側は「グローバリゼーションは持続可能な開発にとって不可欠であり、すべての人々の生活の質を向上させる可能性がある、、、」とグローバリゼーションを肯定的に捉えている一方、途上国や経済移行国の中には「グローバリゼーションは必ずしもすべての国が恩恵を受けているわけではなく、格差が大きく拡大する懸念がある」とグロリゼーションがもたらす結果に懐疑的である。

・グッド・ガバナンスについて(45b,146)

 グローバルリゼーションを衡平で包括的なものにするためのグッド・ガバナンスについても対立が激しい。先進国側(特に日・US・豪・加)は、グッド・ガバナンスとは国内(特に途上国内)に腐敗がないことを言うと主張。資金を援助しても腐敗政治のために有効に活用されていないという考えがある模様である。これに対して途上国側(G77)は、グッド・ガバナンスとは、企業の行動に関する国際枠組みを作ることであると主張しており、先進国側が国内のガバナンスに踏み込むのは資金援助に条件付けをするためであると反発している。NGO側は、多国籍企業の法的規制、モニタリングを含めた国際的枠組みを要求している。

 

5.貿易問題

 貿易補助金の削減に関する部分と、環境に与える影響についてはすべて〔 〕内である。また有機農産物、フェアトレードのような持続可能な貿易の促進(45g)も合意されていない。

 途上国は、もっと公平な市場アクセスを求めて先進国側の補助金を撤廃するように要請したが先進国は反対。途上国の輸出に関して講じる市場アクセスに関する措置と、貿易関連の環境措置の悪影響について綿密な研究に着手するように働きかけるという部分が〔 〕内である(85a.alt) 。環境へのアセスメントはEUが支持するも途上国が反対している。貿易分野では第4回WTO閣僚会議(ドーハ会議)が重要視される傾向にあり、「ドーハで合意されたように」という文言に対してG77、NGO側が疑問を投げかけている。NGOはWTOの決議が多国間環境条約(MEA)に反しないことを要請した。  

 

6.資金問題

 第4回準備会合で大きく取り上げられた問題が、債務と資金の問題であった。途上国は、貧困撲滅と社会及び人間開発促進のために、国連総会で決定されるモダリティーに従って世界連帯基金を設立することを要請 (6b) したが、主に先進諸国が反対。ODAでは先進諸国がGNPの0,7%を発展途上国の、GNPの0,15〜0,2%を後発開発途上国のODAとすることを合意した資金開発会議の目標を達成するよう促し(76)、またそれを途上国のニーズに応えられるような柔軟なものにするかどうか(77)という点について意見が分かれる。また、短期資金流入による極端な変化を軽減する手段として、途上国の持続可能な発展に貢献できるように、予測可能で安全な国際資金の環境を提供する(78(b))という部分も未解決である。

・債務関連

 債務問題に関しては、開発途上国の負債責務を削減、帳消しするかどうか(80)、重債務貧困国(HIPC)における自然災害、厳しい貿易条件による打撃、紛争などによって生じた途上国の負債責務を根本的に変える適正な手段をとるべきかどうか。(80a)という点が保留されている。

 

タイプ2

 B「約束文書」  

◇内容と問題点

   約束文書は他の文書とは性格が異なり、各国の批准を必要としていないことから、タイプ2と呼ばれている。アジェンダ21がなかなか行動に移されてこなかった反省から、実効性に重点を置いているところが特徴である。各界関係主体による具体的なイニシアティブの提案・表明が記載される予定であるが、その条件として

      活動内容及び活動範囲が国際的であること

      持続可能な開発活動の支援であること

      資金源がはっきりとしていること

      ヨハネスブルグサミットの関連で特別に計画された新規のものであること

などが挙げられている。これまでに日本政府も含めた様々な各界関係主体が宣言を出し始めているが、実際に誰がそれを有効と認め るか、モニタリングをどうするのか、タイプ1成果とどうリンクされるのかなどの問題点が残されている。