ヨハネスブルグサミット通信2

2002年8月31日(土)

特定非営利活動法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

 

 

閣僚級会合(ヨハネスプロセス)始まる

8月30日午後から、ヨハネスプロセスと呼ばれる閣僚級会合が始まりました。29日の夜、EUは、リオ原則、淡水、衛生、エネルギー、消費・製造パターンに関する10年計画、貿易と資金などこれまでの交渉で合意できなかった14項目について、これまでウィーンプロセスではなく閣僚級会合で協議を行うことを提案し、交渉がストップしました。結局、ヨハネスプロセスと従来のウィーン方式と両方の会合を続けることになり、31日もヨハネスプロセスとウィーンプロセスの会合が断続的に行われています。EUが、ウィーンプロセスではなく、ヨハネスプロセスでの交渉を提案したのは、ウィーンプロセスではEU、G77(途上国グループ)などのグループごとの代表だけしか発言できないのに比べて、正式のグループとして認められてないJUSCANZ諸国はそれぞれ発言できるため、発言数で不利となることを避け、EU-15カ国のそれぞれの閣僚が発言できるヨハネスプロセスでの交渉のほうが有利と考えたと思われます。また、G77も、そのなかには環境への対処に積極的な小島しょ国のようなグループから、正反対の石油輸出国機構(OPEC)のような国々もあり、ウィーンプロセスではこうした意見が反映されないことも事実です。

このヨハネスプロセスには、31日は大木環境大臣が出席しており、川口外務大臣とは、京都議定書問題は大木環境大臣、エネルギー問題は川口大臣と、任務分担をしているようです。

 

京都議定書問題、合意!!

世界実施文書の京都議定書に関する記述は、ヨハネスプロセスと呼ばれる閣僚級セッションで論議され、8月31日午後6時5分(ヨハネスブルグ現地時間)、「京都議定書に批准した国は、まだ批准していない国に対し、適切なタイミングで批准するよう強く促す(strongly urge)」との表現で合意に達しました。この表現は、これまでの実施文書案の表現を超えるもので、京都議定書の年内発効と、その確実な実施に向けて確かな前進と評価してよいと思います。

政府関係者によると、ヨハネスプロセスのムサ議長から京都議定書問題で積極的な発言をした大木環境大臣に対し、京都議定書問題をファシリテートするよう依頼があり、新たな文案を準備し、各国の意見の調整を図ったとのことです。

この京都議定書問題では、8月27日、ヨハネスブルグサミットに参加していたCASAを含むNGOの代表が大木環境大臣に面会し、「世界実施文書の京都議定書の年内発効とその確実な実施についての記述について、日本政府がこれを支持することを公式な会議の場で表明する」よう緊急申入れを行っていました。

 

残された課題

京都議定書問題は合意に達しましたが、8月30日の時点で、まだ多くの論点が合意できずに残されています。これらのうち、次週の首脳級会合に先送りされそうな問題についての現状は以下のとおりです。  

 

再生可能エネルギーの数値目標

ヨハネスブルグサミットも閣僚級会合が始まり、再生可能エネルギーの数値目標がヨハネスブルグサミットの成否を決める重要なポイントの1つになっています。

世界実施文書のパラグラフ19(e)は再生可能エネルギーについては、再生可能エネルギーの定義と導入目標についての交渉が行われています。これまでの交渉で、数値目標の多くが削除されてきました。

現在、再生可能エネルギーについて記述する世界実施文書のパラグラフ19(e)には、「2010年までに全一次エネルギー供給の少なくとも15%まで世界中の再生可能エネルギー資源の割合を増加する」とのEU提案、「少なくとも5%」、「少なくとも2%」、アメリカや日本などの「数値目標は設けない」などの提案がなされており、これに再生可能エネルギーに大規模水力発電を含めるかどうか、また、各国ごとの数値目標か、世界全体の目標か、などが交渉の論点とされています。

 8月29日午後3時から、ブラジル、ノルウェー、アルゼンチン、フィリピン、メキシコなどが共同記者会見を行い、再生可能な自然エネルギー(大型水力と伝統的なバイオマスを含まない)が占める割合を2010年までに10%まで引き上げるという案を発表しました。

ブラジル提案とEU提案との根本的な違いは、大型水力発電を含むかどうかにあります。国際エネルギー機関の予測では大型水力を含めるとEUの2010年の再生可能エネルギーの割合は、新たな政策措置をとらなくても14%まで上がると予測しています。EUの提案は数字は15%と大きく見えますが、実はブラジル提案よりかなり弱い提案であることがわかります。日本でも大型水力発電の発電量は現在でも一次エネルギーの2.7%位を占めており、2010年までの新エネルギー目標である3%を加えると5%を優に超えます。日本の水力発電の稼働率は30%を切っており、稼働率を上げれば10%は困難な数値目標とは思えません。経産省の交渉担当者と話したところ、日本における10%の実現性についての問題というより、考え方の違いだとのことでした。現在は、再生可能エネルギーはコストが高く、これから増大が予想される途上国のエネルギー需要を考えると費用対効果の点で問題があるということでした。しかし、地球温暖化問題などを考えれば、再生可能エネルギーに転換することが不可欠であることは明らかです。

アメリカや日本はエネルギー目標設定自体に頑強に抵抗しており、新聞報道では、川口外務大臣がアメリカのドブリャンスキー米国務次官(地球問題担当)と会談し、「閣僚級会合で残る焦点となっている「再生可能エネルギー」の利用原則で、欧州連合(EU)が求めている全エネルギーに占める比率の数値目標と達成期限の設定について、反対の立場を日米両国が取っていくことを確認した」とのことです。

WSSDに参加している日本のNGOは、連名で2日にヨハネスブルグ入りする小泉首相に面会を申し入れ、この再生可能エネルギーの数値目標などについて日本政府がブラジル提案に賛成するよう要請することにしています。  

 

水・衛生(サニテーション)

水(飲料水)についての交渉はほぼ合意に達しています。水問題は、健康問題と密接に関連するだけでなく、女性や子供が水を汲むために過重な労働を強いられていること、子供が水汲みに多くの時間をとられ(ひどい場合は、20キロメートルも遠くなら水を汲んでくる)、教育を受けれないなど教育問題とも関連してます。実施文書では、「2015年までに安全な飲料水にアクセスできず、入手できない人々の割合を半分にする」との目標がかかげられました。

一方で、「2015年までに改善された衛生設備(下水)を利用できない人々の割合を半分にする」とのEUの提案に、アメリカなどが強く反対しており、決着がついていません。アメリカは、2015年までというタイムフレームも、半減の達成目標も、いずれもこれができるとの科学的根拠や情報が不足していると主張しているようですが、要はこれらを実施する資金を問題にしているようです。

   

 

リオ原則

 「共通だが差異のある責任」と「予防原則」は、1992年のリオ・デ・ジャネイロでの地球サミットで合意された重要な原則です。

 「共通だが差異のある責任」は、すべての国々は、環境に対して同じ責任を持っているが、地球環境問題は主として先進国が引き起こしていることから、先進国が率先して取り組みを行うべきだということを意味しています。

アメリカなどは、この「共通だが差異のある責任」が気候変動枠組条約などの環境問題に適用されることは合意されているが、開発問題にまでこの原則を適用することには合意してないとして、この原則を一般条項とすることや、開発課題のパラグラフに記述することに反対しています。

確かに、「共通だが差異のある責任」は、リオ宣言では、環境問題の文脈で記述されていますが、そもそも地球サミットは「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」と呼ばれる会議であり、リオ宣言も正式名称は「環境と開発に関するリオ宣言」となっています。途上国の開発問題も、その原因の大きな部分が先進国の多国籍企業などの行為によっており、「共通だが差異のある責任」は持続可能な開発にとっても必要不可欠な概念です。もし、ヨハネスブルグサミットでこれらのリオ原則が削除されるようなことがあれば、ヨハネスブルグサミットの成否にかかわる問題だと言わねばなりません。

 

グローバルピープルズフォーラム会場(Nasrec) Part2

 会議4日目の29日(木)、ナズレック会場においてCASA主催のセミナーを開催し、CASAからサミットに参加している4団体がそれぞれの活動を紹介する発表を行いました。

 まず、大阪いずみ市民生協の渡辺治さんが生協グループを代表し、リサイクル運動の他に、食品添加物や遺伝子組み替え食品の問題など、消費者を取り巻くいろいろな問題について積極的に取り組む日本の生協の紹介をしました。また、平和運動にも積極的に取り組み、原爆の悲惨さを紹介する展示を各地で開いているとの説明に、会場の参加者も聞き入っていました。

 次にみずしま財団の塩飽敏史さんが、みずしま財団の設立の経緯を説明した後、財団が取り組んでいる各プロジェクトの紹介をしました。これらは、地域づくりに市民が主体的に関わることを目標に、まず自分の住んでいる地域を知ることから始めようと、市民参加型の調査をしていることが特徴です。2000年に瀬戸内海で行われた海底ゴミの調査の様子や、昨年1月に水島中学校の総合学習の時間に進められた樹木のCO2吸収量の調査、今年6月に行われた八間川の生物調査の様子を、プロジェクターを使いながら説明をしました。

 3番目に、大阪府職員労働組合の岸田真男さんと大石晃子さんが、大阪府の地理的な紹介をした後、深刻な大気汚染公害の歴史を踏まえて、近年のダイオキシン問題、さらには地球温暖化問題などの環境問題にどのように取り組んでいるのかを説明し、大阪の街の紹介なども盛り込み、英語でスピーチをしました。

 最後に、CASAからは坂田裕輔さんが、日本のCO2削減可能性についてのCASAの試算結果を発表しました。

 各団体がそれぞれの発表を終えた後、参加者からの質疑応答が行われ、貴重な発言と提案がありました。南アフリカのNGOの男性からは、世界のNGOがもっと手をつなぎ、ひとつになって国連に働きかければ、大きな影響力を持つことができるのではないかという問題提起がありました。さらに別のNGOの方からは、南アフリカでのNGO活動の現状について、政府からのNGOへの資金的支援がないことやNGO活動に対する関心のなさ、さらには一般の人の関心も薄いことなどをあげ、日本の現状を尋ねられましたが、日本も同じような状況であることを説明しました。また、最初の男性からは、再度、南アフリカの現状をもっとよく知るために、サミットが終わったらぜひ地方を視察してほしいとの要望が出されました。日本に帰ってからも連絡を取り合い、情報交換をしようという話も出て、サミットで世界の人たちと交流するという、ひとつの大きな成果を得られたと思います。

 全体として、若い人のこれからのNGO活動を支えていく若い人のパワーを感じることができたセミナーでした。

 

NGOの入場制限

サントンの国際会議場には、4500人近くのNGOが集まっているとされていますが、NGOに対する入場規制が問題になっています。WSSDが始まった8月26日、27日はセカンダリーパスと呼ばれる入場券がないと会場に入場できないとされ、多くのNGOがパスを求めて1時間も2時間も並ぶという事態になりました。

NGO側の強い抗議により、27日からは、会議場ビルへの入場者が6000人に達した時点で、NGOのみ入場を制限するという対応が取られました。そのため朝8時30分の開場時には、NGOの長蛇の列ができました。

28日からは、この6000人が8000人に増やされ、一応、入場問題は解決しました。日本のNGOも、26日の日本政府によるブリーフィングの際にNGOの入場に関しての改善を要望し、27日朝、日本政府代表団から国連事務局に申し入れがなされました。

 しかし、9月2日の首脳級会議では、再び、NGOの入場制限が復活し、NGOのパスは1日、1300枚に制限され、NGOは1人が、3日間のうちの1日分、1枚だけを先着順で入手できることになっています。

 こうした議論のなかで、日本政府代表団が700名も登録していることが問題となっています。アメリカでも500人程度だそうです。一方で、日本政府代表団は492名と外務省は言っており、700人と492名の差が問題となっています。企業関係者がこの差のなかに含まれているとすれば、市民NGOだけが排除されることになり、大きな問題です。

 

参加者の感想

CASA理事・鳥取大学 八木俊彦先生

8月29日≫

WSSDも早や3日が過ぎ、前半の日程が終わりました。全体の様子が少し分かり行動にも慣れてきましたが、頭の中が混乱し、大事なことを見失いそうにもなってきました。頭の中を整理し皆さんの何かの参考になればと思い、簡単なメモを作ってみました。御笑覧ください。

1 3会場(サントン・ナズレック・ウブント)の移動はかなり不便。

2 会議の案内が分かり難い。

3 治安に気を使い、政府や企業はクローズドな感じ。

4 会議の内容はよく分からないが、NGOはワンパターン、ステレヲタイプのものが多く、批判と自己主張が強く、パートナーシップの可能性を感じさせるものは少ない。政府や企業も大差はないが、ややパートナーシップの前進を感じる。

5 森林問題では、予想どおり単純粗雑なデフォーレステーション(森林減少)論とアフォレステーション(森林再生)論が多く、専門家や科学の必要性と責任を感じる。

6 残り2日の会議や交流に何とか役立つように頑張りたい。

   

8月30日≫

 アッという間に私のWSSDの参加は最終日を迎えました。できれば後半の日程にも参加したいのですが、出来ないので残念です。その不参加の日程でのみなさんの活動に少しばかりお役に立ちたいと思い、私が参加して重要な成果と問題であると思ったことを記します。またまたご笑覧願えれば幸甚です。

1 真のパートナーシップの構築を前進させる真の合意を得ることが、今サミットの最大の目標であり課題でもあると私は思っていますが、この目標・課題の達成と解決は予想通り本当に難しいと感じました。

2 その感じを特に強く実感しましたのは、森林問題のかなり重要と思われる3つの会議です。ブラジルアマゾン、コンゴ熱帯林(原生林)・インドネシア熱帯林の3つの会議で、政府と企業が一体となって政策的事業を行う話が中心でした。

3 これらの会議内容には、プロジェクトの増加や先住民・地域社会・NGO等の参加促進というような多少の前進面もありましたが、肝心の国際森林政策の無力・無責任についての反省がなく、今サミットにふさわしい議論には程遠いものでした。

4 それでも少し救いがありましたのは、昨日のジャパンデーでの森林会議でのフロアーからの意見でした。私が日ごろ考え、今回機会があればぜひ発言したいと思っていた意見を、インドネシア2名、アメリカ2名、日本1名のNGOのメンバーが言ってくれました。

5 ただ残念でしたのは、IPCCの教える専門家集団の役割の重要性を訴える意見が無かったことです。私が発言したかったのですが、極めて短い発言時間の制約のためできませんでした。残念で申し訳ないと思っています。

6 でも、私が地球サミット以来10年、考え悩んできたテーマは間違いなかったと確信でき、今後専門家として、またNGOとして為すべきことが見えてきそうな感じが掴めたのは本当によかったと思います。

 

 

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