ヨハネスブルグサミット通信1
2002年8月28日(水)
特定非営利活動法人 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
ヨハネスブルグサミット始まる
8月26日午前、ヨハネスブルグのサントン地区のコンベンションセンターでヨハネスブルグサミットが始まりました。ムベキ南アフリカ大統領、ディサイ国連事務局次長、国連環境計画(UNEP)の代表などのスピーチの後、ムベキ南ア大統領が議長に選出されました。
サミット直前の非公式協議
サミットの非公式会合が、24日と25日の2日間行われ、世界実施文書のこれまで合意できていない部分についての交渉が行われました。この非公式協議はNGOやマスコミにも非公開で行われ、6月のバリでの準備会合や7月17日に議長が28カ国を招待して行った「議長の友会議(friends of chair)」で積み残したテーマについての議論が行われたとのことです。
非公式交渉はウィーン方式と呼ばれる形式で進められ、このうち実施文書第10章ガバナンス(統治)と、最も重要かつ困難とされる貿易・資金を含む第9章実施手段の部分についての2つのコンタクトグループが設けられ、その下にさらに合意の難しいテーマについて小グループが設けられて個別テーマごとに交渉が行われています。このウィーンプロセスと呼ばれる形式は、EU、G77などのグループごとの代表だけが発言するとの形式で、各国がそれぞれ発言するより、はるかに討議時間が短縮され、スムースな議論が進むとの狙いがあるようです。ただ、アメリカ、日本、カナダなどは、本来はJUSCANZ(日本、アメリカ、カナダ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの頭文字。ジュスキャンズと読む)というグループを形成していますが、グループではなく各国が発言しているとのことです。
貿易・資金の交渉はすでに「議長の友会議」で、WTO第4回閣僚会議で採択されたドーハ宣言や、メキシコで行われた国連開発資金会議のモンテレイ合意の再討議はしないとの合意がなされていますが、アメリカがドーハ宣言の文面を大量に入れ込んだ提案文書(non-paper)を配布し、これを受けて、このコンタクトグループのジョン・アッシュ議長が議長提案を出し、この議長提案を巡って交渉が進められました。しかし、この議長提案がアメリカの提案寄りだとして途上国がこれに反発し、非公式会合では両者も溝は埋まらず、交渉は26日からの本会議に持ち越されました。また、ガバナンスについての議論も、先進国は途上国国内のガバナンス改善(グッド・ガバナンス)が条件とし、これに反発した途上国が交渉を拒否し、ガバナンスのコンタクトグループはほとんど交渉が行われないまま本会議初日を迎えることになりました。
また、リオ原則、エネルギー、淡水、気候変動、連帯基金などについてのいくつもの小グループが設けられて交渉が続けられましたが、ほとんど議論が進まなかったようです。
WSSD本会議での議論
非公式会合のウィーン方式は、形式的には25日にいったん終了しましたが、本会議でも実質的には同じウィーン方式で、実施文書の合意できていない部分についての議論が、実施文書の項目に従って続けられています。また、コンタクトグループでの議論や小グループでの議論も断続的に続けられています。現在は「貿易投資」「ガバナンス」の2つのコンタクトグループと「リオ原則」、「資金・貿易」、「エネルギー」、「気候変動」、「化学物質」、「公衆衛生」、「生産・消費パターン」などに関する小グループが設置されています。
リオ原則については、「共通だが差異ある責任」、「予防原則」について、これを実施文書に明記するかどうかについて意見が対立しています。共通だが差異ある責任(リオ第15原則)については、多国籍企業を有するアメリカ、日本、カナダなどが、開発にこの共通だが差異ある責任が適用されることに反対しています。予防原則(リオ第7原則)の問題では、「予防原則」という言葉か、「予防的アプローチ」という言葉かが議論されていますが、この言葉自体を削除する動きもあり、予断を許さない状況になっています。予防原則については、遺伝子組替食品の輸入に関して輸入国が予防的に自国の判断でそれを止めることができるかどうかが実質的に問題になっており、遺伝子組替食品産業を有するアメリカやカナダなどが、予防原則に強く反対しています。
8月28日現在、合意が困難なテーマとして残っているのは、「サニテーション(公衆衛生)」、「再生可能エネルギーの数値目標を含むエネルギー問題」、「化学物質」、「生産と消費に関する10年計画」、「気候変動問題」などです。また、企業の説明責任の問題や、NGOなどの「メジャーグループの参加」の問題も議論が残っています。これらについて事務レベルの交渉が続いていますが、多くのテーマが閣僚級の交渉に任されることになりそうです。
大木環境大臣に緊急申入れ
8月27日、WSSDで採択が予定されている世界実施文書の京都議定書に関する記述をめぐって、現地の9つのNGOが連名で大木環境大臣に緊急申入れを行いました。EUが、京都議定書に関する記述をエネルギーの数値目標と取引に使おうとしているとの情報があり、海外のNGOと協議してそれぞれにロビーを行うことになり、WSSDに参加しているNGOが協議して緊急の申入れを行うことになったものです。
世界実施文書には、京都議定書の文言はパラグラフ36の1個所しかありません。ところが、この1箇所の京都議定書の文言をいれることにすらアメリカなどが反対しており、パラグラフ36はいまだに合意できていません。ところが、この京都議定書の文言を入れることを主張しているEUが、アメリカがあまりに強硬に反対するために取引に使おうとしているのではないかと情報があり、気候変動問題に取り組んでいる世界のNGOが各国政府に京都議定書の文言を実施文書に明記することを働きかけようということになりました。
WSSDに参加している日本のNGOも日本政府代表団に申入れをすることになり、8月27日、急遽、9団体で大木環境大臣に面会を申し入れ、同日午後8時45分から大木大臣に面会し申入れを行いました。申入れの趣旨は、「世界実施文書の京都議定書の年内発効とその確実な実施についての記述について、日本政府がこれを支持することを公式な会議の場で表明する」ことです。大木大臣からは、申入れの内容は大臣としても同じ考えであり、申入れの趣旨に沿って努力するとの回答がありました。
グローバルピープルズフォーラム会場(Nasrec)
政府間交渉が行われているサントン地区の会場からシャトルバスで約30分(渋滞していると1時間30分くらい)離れたナズレック地区で「グローバル・ピープルズ・フォーラム」が開催されています。ここでは、世界各国から集まったいろいろな活動を展開するNGOがブース出展してそれぞれの活動をPRしたり、シンポジウムやワークショップを開催したり、音楽やダンスなど、さまざまな交流が行われています。
CASAのスペースでは、CASAから参加している各団体が、それぞれ趣向をこらした展示をしています。日本生協連や大阪いずみ市民生協、おおさかパルコープの生協グループでは、日本での生協活動の紹介の他、原爆の悲惨さをものがたる写真を展示していて、多くの人が熱心に見入っています。また大阪府職員労働組合は、大阪府のダイオキシンをはじめとする環境問題への取り組みについての説明の展示を、みずしま財団は、水島地域での公害克服への取り組みと公害患者さんの紹介のビデオを放映し、こちらも多くの人が熱心に説明を聞いていきます。その他には「いのちと環境ネットワーク」の長野晃さんが、大阪のダイオキシン汚染の深刻さを説明する展示を行っています。
CASAは、日本でのCO2排出削減の可能性についてまとめたものや、CASAが21世紀に取り組むべき課題についてまとめた「CASAのアジェンダ21」を冊子にし、見学者に配布したり、教材の展示を行っています。
CASAのブースは展示ホールの入り口にあり、日本の文化を紹介するために持ってきたこいのぼりを飾ったり、つるなどの折り紙を折って飾ったりととても目立っていることもあり、たくさんの人が立ち止まって見て行ってくれます。特に折り紙教室はとても好評で、初日には会場でボランティアをしている南アフリカの若い人たちが、ほぼ一日中(!)熱心につるを折っていました。またけん玉も好評で、果敢にチャレンジする人もいます。こうした交流を通して、他の国の文化や生活に対する理解が深まり、相互理解が進み、世界の紛争や環境問題など山積みの課題を、ともに解決していく契機になればと思います。
CASA展示ブースで折り紙を教えている様子。参加者は会場でボランティアをしている若者たち。
CASAのブース。日本生協連やアース基金協会、みずしま財団、大阪府職員労働組合など、CASAから参加した団体の展示を行っている。ブースが入り口付近にあり、こいのぼりや子供たちが書いた絵は、とても好評。
ヨハネスブルグ危険情報!
ヨハネスブルグは世界でも最も治安の悪い場所の1つとしてあげられ、相当注意が必要であることは出発以前から何度も耳にしていましたが、8月26日、27日の2日間だけでも既に強盗や発砲事件が報告されています。在南アフリカ大使館からの情報によると、被害に遭った場所はセントラル地区や車での移動中、そしてホテル内です.ホテルでは、25日に日本の代表団の一人が客室荒らしに遭い、25日未明にスイスの政府代表団の女性2人が被害に遭う事件がありました。1人は発砲されたものの負傷は免れて強盗未遂に終わりましたが、もう1人は貴重品を盗られています。他にも邦人の被害は2件報告されています。政府関係者も泊まる「安全」とされる地区での発砲には、中心から外れた安全なはずのホテルに泊まっている私達の身も引き締まる思いです。
国連の会議場(サントン)には多くの警官が動員されており、ヘリコプターを飛ばし、建物に入るまでに2重にチェックを受け、建物への入場にも6000人という上限を設けてセキュリティーの強化がはかられています。しかしそのために中に入れるNGOの人数は制限されており、毎朝長蛇の列に並んで長時間待たされる状況になっているため、多くのNGOはこの制限を取りやめるように要請するために、26、27日の2日間は労力を使ってしまうという状態でした。この制限は28日にはNGOの申し入れで8000人に増やされています。
NGO広場(ナズレック)でも、サントンほどではないけれども警官が中に立っており、27日は拳銃をもった警官が増えていました。基本的に私達の行動範囲はこのサントン、ナズレックとホテルの中ですが、毎日大使館が配る安全情報速報に、安心は出来ない状態です。
大木 浩 環境大臣 殿
緊 急 申 入 れ
2002年8月27日(ヨハネスブルグにて)
A SEED JAPAN
FoE Japan
Japan Youth Ecology
League
環境エネルギー政策研究所
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
市民フォーラム2001地球温暖化研究会
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
地球環境を守る会「リーフ」
ピースボート
ヨハネスブルグ・サミット提言フォーラム
申入の趣旨
私たちWSSDに参加している環境NGOは、世界実施文書の京都議定書の年内発効とその確実な実施についての記述について、日本政府がこれを支持することを公式な会議の場で表明されよう強く求めます。
申入の理由
世界実施文書第36項の京都議定書の年内発効とその確実な実施について、この記述を残すかどうかの交渉が続いていると聞いています。
京都議定書は、地球サミット以降のもっとも重要な成果であるだけでなく、存在する唯一の地球温暖化防止の国際的なレジームであり、これを確実に実行することが地球温暖化防止の第一歩です。
私たちは、京都議定書の年内発効とその確実な実施を世界実施文書に明記することが、地球温暖化防止にとって極めて重要だと考えます。
京都議定書が採択されたCOP3の議長国である日本政府が、世界実施文書に「京都議定書」の文言を残すよう表明することは、世界の市民と将来の世代に対する責務だと思います。