CASAのアジェンダ21

21世紀を平和で環境の世紀に

                               

 ・リオから10年―深刻化する環境・貧困問題

 ・ヨハネスブルグサミットの課題

 ・21世紀を平和で環境の世紀に

 ・気候変動問題とリオからの10年

 ・有害化学物質の社会的管理の課題

 ・法的拘束力のある森林条約の締結を

 ・永続可能な社会と市民/NGOの役割

 

 CASAは、1988年10月、1970年代から大気汚染公害の解決と被害者救済に取組んできた公害被害者の運動、1981年3月頃から全国に先駆けて地球環境問題を取り上げてきた消費者の運動と、科学者・研究者が合流して設立された。

 1992年の地球サミットには、CASAを含む18団体(合計96名)が代表団を結成して参加し、リオのグローバルフォーラムで「地球温暖化問題に関する国際フォーラム」、「世界と日本の大気汚染測定ネットワーク」、「戦争による環境被害についての交流会」などの取組みを行った。また、地球温暖化問題については、1991年2月から始まった気候変動枠組条約の締結に向けた「政府間交渉委員会(INC)」から国際交渉に関わるとともに、日本におけるCO2排出量削減可能性などについて検討し、日本政府などに対する提言活動を行っている。

 この「CASAのアジェンダ21」は、リオから10年の環境問題について、市民の立場から総括するとともに、環境NGOとして、気候変動問題、有害化学物質問題、森林問題、市民の参加などの問題について、今後10年の行動計画を提案し、自らの実践課題と目標を提起するものである。

2002年8月

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)


 

リオから10年―深刻化する環境・貧困問題

 1992年の地球サミットは、気候変動枠組条約と生物多様性保全条約の署名が始まるとともに、リオ宣言、森林原則声明、アジェンダ21が採択した。なかでもアジェンダ21は、リオ宣言に盛り込まれた諸原則を踏まえて、21世紀に向けた行動計画が40章にわたり具体的に定めている。

 地球サミットの成果については、様々な評価がある。確かに、「リオ宣言」には随所に北と南の政府の主張に妥協した記述が挿入され、「気候変動枠組条約」はアメリカの強い抵抗で削減目標が法的義務のないものとされ、「生物多様性保全条約」は途上国の反対で保護対象リストが削除されてしまった。また、環境と貧困、人口問題、多国籍企業の規制の問題などはほとんど論議されなかった。「北」の国々は自らの原因者・加害者としての責任をとろうとせず、途上国の政府もあいかわらず、開発優先の近代化路線を歩もうとしているように見えた。しかし、一方で、「共通の未来」と「永続可能な発展」という地球サミットのメインテーマが国際世論の広範な支持を集め、「南」の貧困の解決なしには地球環境の保護もありえないことや、「共通だが差異ある責任」や「予防原則」などの基本原則が確認されたことの意義は大きい。また、NGO元年と言われるほどNGOの活動が活発で、国際的規模での「人民の力(ピープルズ・パワー)」の大きな高揚が見られた。

 リオから10年。砂漠化防止条約、京都議定書、バイオセーフティ議定書、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約など、国際交渉では重要な前進はあったものの、もっとも進んだ分野とされる気候変動問題でも、ようやく京都議定書の運用ルールの合意ができた段階で、未だに発効していない。「アジェンダ21」の行動計画はほとんど実行されず、ほとんどの分野で環境と開発に関する状況は悪化した。大気中のCO2濃度は増加し、1990年代は1860年に計器による観測が始まって以来最も暑い10年だった。また、深刻なダメージを受けているサンゴ礁の割合は1990年の10%から2000には27%にまで増加した。世界食糧農業機関(FAO)の報告によれば、世界の天然林は、1990年から2000年の間に年間1420万haの割合で減少した。人口増加と「経済成長」が限られた水供給を圧迫し、世界の3分の1の人々がすべての水需要を満たすのが難しいか不可能と言われ、この割合は2025年までに3分の2に倍増すると予測されている。

 この10年でもっとも特徴的なのは、経済のグローバリゼーションが急速に進行したことある。途上国と先進国の貧富の差は拡大し、最貧層20%と最富裕層20%の所得格差は、1960年には1:30であったが、1990年には1:60、2000年には1:78にまで広がった。絶対的貧困層は、10年前の10億人から2000年には15億人に増えた。政府開発援助(ODA)をGNP比で0.7%に引き上げるとの先進諸国のリオでの「約束」は、増えるどころか1992年の0.33%から2000年には0.22%に減少した。

 「地球の生態学的なバランスが崩れ、その生命をささえる特質が失われて生態学的なカタストロフィー(破局)が到来する」(1989年12月22日第44回国連総会決議)危険性はますます高まっており、もはや一刻の猶予もない状態であることが認識されるべきである。

 

ヨハネスブルグサミットの課題

 ヨハネスブルグサミットでは、「政治宣言」、「世界実施文書」、「約束文書」などの文書が採択されることになっている。しかし、「アジェンダ21」の実施状況を検証・総括することは予定されていない。

 ヨハネスブルグでなされるべきことは、「アジェンダ21」のほとんどが何故実施されなかったのかを検証するとともに、リオで積み残した環境と貧困、多国籍企業の規制の問題やリオ以降に問題化した環境問題について議論し、今後10年の数値目標をもった具体的な行動計画を策定することである。また、砂漠化防止条約、京都議定書、バイオセーフティ議定書、残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約などの環境条約を一刻も早く、確実に実施することを確認することである。そしてなによりも、世界貿易機構(WTO)や国際通貨基金(IMF)などが進めているグローバリゼーションより、環境問題の解決が優先することが確認されなければならない。

 

21世紀を平和で環境の世紀に

 われわれは昨年9月11日以来、アフガニスタンや中東などで起こっている事態を深く憂慮する。われわれは、軍国主義、環境、開発に関するNGO条約(TREATY ON MILITARISM,THE ENVIRONMENT AND DEVELOPMENT)に記述された「環境破壊と資源の枯渇は、軍事紛争除の原因となるとともに、それらの結果としても発生」し、「軍事行動は、生命を破壊し、環境を荒廃させ、そして資源を枯渇させる。核兵器と核廃棄物のない、また地域紛争と軍事独裁のない非軍事化を完全、全面的、かつ環境保全型で実施することは緊急の課題である」との原則を再確認する。

 CASAのアジェンダ21」は、リオから10年の環境問題について、市民の立場から検証するとともに、環境NGOとして、気候変動問題、有害化学物質問題、森林問題、市民の参加などの問題について、今後10年の行動計画を提案するものである。

 戦争と環境破壊の世紀であった20世紀から、21世紀を平和で環境の世紀にすることの決意をこめて。

 

 

気候変動問題とリオからの10年

1 進行する地球温暖化―「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の警告

 リオから10年、温室効果ガスの削減目標に合意した京都議定書の採択などの重要な前進はあったが、温暖化は止まるどころか急速に進行し、現実のものになりつつある。

 大気中のCO2濃度は1750年から31%増加し、その増加の半分は20世紀の後半に起こった。現在の濃度は過去42万年間で最高で、しかもその増加のテンポはかってなかったものである。

 全球の表面気温は1861年以降、0.2℃上昇した。これは主として1995年から2000年までが相対的に高温であったためである。また海面水位は20世紀中に10〜20cm上昇した。1860年に計器による測定が始まって以来、1990年代はもっとも温暖な10年であり、1998年はもっとも温暖な年であった。このまま温室効果ガスの排出が続けば、地球の平均気温が2100年には1.4〜5.8℃上昇し、海水面も9〜88cm上昇すると予測される。

 観察される温暖化傾向は、自然変異によるものとは到底認められない。様々なデータを比較検討してみると、地球の気候に明らかな人為的な影響が認められる。すでに地球温暖化は始まっており、急速に進行している。

 

2 気候変動問題と「リオからの10年」

 リオから10年。EUの一部の国や経済移行国を除いて、ほとんどの国が温室効果ガスの排出量を増加させてしまった。世界の政策決定者は議論に終始し、実効性ある対策を実行しようとしなかったと言わざるを得ない。

  しかし一方で、条約・議定書交渉では、1997年12月には京都議定書が採択され、2001年11月に運用ルールについての最終合意が成立するなど、重要な前進があった。2001年11月のCOP7が、アメリカの京都議定書離脱宣言を乗り越えて最終合意を成立させたことは、国際社会の健全性を示したものと評価できる。

 また、気候変動に関する科学的知見が集積され、IPCCの報告書が地球温暖化に関するもっとも信頼性の高いの科学的知見としての地位を確立したことも重要なこの10年の成果である。こうした科学的知見が条約・議定書交渉を進める重要な要因となったことは、他の分野でも教訓とされるべきである。

 確かに、京都議定書の削減目標は極めてささやかなもので、この削減目標では地球温暖化を防止できないことは明らかである。合意された運用ルールは、日本、ロシアなどの後ろ向きの交渉により、京都メカニズムの補完性についての数量的な上限は設定されず、森林など吸収源の吸収量が大幅に算入可能となるなど、排出削減義務が弱められてしまった。

 しかし、ささやかであっても削減目標に合意したことは大きな意義がある。また、様々な問題点はあっても、総体としては地球温暖化防止の第一歩となる運用ルールが合意されたと評価してよい。京都議定書が存在する唯一の地球温暖化防止の国際的なレジームであり、これを確実に実行することが地球温暖化防止の第一歩である。

 

3 日本における気候変動問題の「リオからの10年」

 日本政府は、1990年に「地球温暖化防止行動計画」を策定して、「二酸化炭素の一人当たり排出量を2000年以降概ね1990年レベルで安定化」(=ゼロ削減)という目標を掲げたが、2002年7月、温室効果ガスの2000年度の排出量が1990年度比で8.0%増加したことが明らかになり、「地球温暖化防止行動計画」完全に破綻した。

  2002年3月、地球温暖化対策推進本部は新たな「地球温暖化対策推進大綱(以下、新大綱という)」を策定した。しかし、この新大綱は、6%削減の大半の5.5%を、吸収源(3.9%)や京都メカニズム(1.6%)などに頼り、掲げられている目標や実施スケジュール、また対策を推進するための施策の内容にも重大な疑問があるなど、日本の削減目標である6%の達成がほとんど不可能な計画になっている。

また、条約・議定書交渉でも、日本政府は一貫して後ろ向きの交渉ポジションをとり京都議定書の「抜け穴」を拡大してきた。とりわけアメリカ政府の京都議定書離脱宣言後は、議定書発効の鍵を握ったことから、これを最大限に利用し、吸収源などで「抜け穴」を拡大した。こうした日本の交渉姿勢が国際社会の大きな非難を浴びた。

 

4 CASAの温室効果ガス排出削減の提案

  CASAの検討では、技術対策・電源対策・需要対策の3つの対策を適切な政策と措 置により総合的に実施すれば、2010年までに日本におけるCO2排出量を1990年レベルから約9%削減することが可能である。また、代替フロン類についても、代替品の多いHFCはすみやかに代替可能な自然物質に移行、代替品が特定できていないPFCとSF6は工場内で厳重管理すれば、二酸化炭素換算で2%の削減が可能である。即ち、適切な政策と措置がとられれば、国内対策のみで11%程度の削減は可能なのである。

 

5 気候変動問題対応への当面の課題

●2002年末までに、京都議定書を発効させること。

先進国は、議定書の第1約束期間の削減目標を、国内対策を優先に確実に履行すること。

●2005年までに交渉が始まる第2約束期間の削減目標では、より高い削減目標に合意すること。

アメリカ政府の京都議定書への復帰を働きかけること。

地球温暖化の影響と対策についての科学的知見の進展が地球温暖化防止の鍵であり、IPCCを一層強化すること。

情報の公開(透明性)と市民/NGOの参加を保障すること。

●2010年までに、世界の一次エネルギー供給の10%を再生可能自然エネルギーで賄うこと。

 

有害化学物質の社会的管理の課題

1 はんらんする有害化学物質と有害廃棄物

  地球環境の化学的な汚染は、まず地下に奥深く埋蔵されていた一連の金属元素が発掘され、広く用いられるようになったのがそのはじまりである。また19世紀の半ば以後になると、それまでは地球上にまったく存在しなかった新しい化学物質(大半は有機化合物)が合成され、さまざまな目的に利用されはじめた。

  金属元素や人工化学物質の利用が比較的少ないうちは、地表の変化はまだ無視できる程度であったが、20世紀の半ば以後になるとそれらの生産量が急速に増大し、しかもそれらを含む化学商品が使用後に無制限に廃棄される中で有害物質による地球環境の汚染(化学汚染)が社会問題化するようになった。たとえば合成有機化合物の年間生産量は、世界全体で1950年に700万トンであったものが70年には6000万トンに増大し、現在では4億トンを突破している。また化学商品に含まれる化学物質の種類も年々増加して現在では10万種におよぶといわれている。

  しかも、これらの化学物質の大半は、毒性データがほとんど知られていないまま使用され、かつ環境に放出されている。アメリカの環境保護庁の調査によれば、年間生産量が 500トンをこえる化学物質(アメリカでは約3000種)の場合でも、毒性データが十分に知られているのは全体のわずか7%にすぎず、逆に43%については安全性に関するデータがまったく報告されていない。

 

2 化学汚染と健康障害の広がり

  このように、安全性が十分にチェックされることなしに多種類の化学物質が大量に生産され、使用され、かつ廃棄される中で、がん発生率の増大、精子の減少と発生・生殖異常の増加、アトピーと化学物質過敏症の広がりなどに象徴的に示されるように、私たちの健康は今や日常的に脅かされており、とくに胎児や子どもに対して回復不能の悪影響がおよぶ可能性が高くなっている。

  たとえば、メキシコでは農薬汚染の健康影響として児童の知能への影響が報告され、欧米では、前立腺がん、メラノーマ(悪性の皮膚がん)、リンパ腫、脳腫瘍、白血病、口唇がんなどの死亡率が農家では著しく高いことが報告されている。同様に、農薬汚染が流産と死産を多発させることも報じられている。

 

3 アジェンダ 21の要請と実行

  このような現実に直面してアジェンダ 21は、各国政府に@化学物質のリスクアセスメントの拡大と促進、Aリスク低減国家計画の確立強化、B有害廃棄物の削減およびC有毒化学物質の輸出入と有害廃棄物の越境移動の厳格な管理を要請した。

  リオから10年。リスクアセスメントの拡大については、経済協力開発機構(OECD)がは、96年までに約100種の化学物質の評価を完了し、つぎの目標(200種)に取りくみ、アメリカでは 2006年までの10年計画で農薬の見直しが進められている。リスク低減の課題でも、OECDが 1996年にPRTR(汚染物質排出・移動登録)制度の導入を各国に勧告した。有毒化学物質の輸出入の管理体制に関しては、輸出国が事前に対象物質の安全性に関する情報を輸入国に提供することを定めたロッテルダム条約が 1998年に成立し、2001年には残留性有機汚染物質(POP)を規制する条約(ストックホルム条約)が締結された。

 

4 日本における有害化学物質行政の問題点

  日本は、化学物質の法規制がきわめて立ちおくれている。PRTRについてはようやく実施段階に入ったが、それ以外のアジェンダ 21の要請はほとんど無視されている。規制の対象とされる化学物質の品目数があまりにも少なく、急性毒性に関する毒物劇物取締法の対象物質を除けば約40種にすぎない。環境基準、農薬残留基準などの規制値も軒なみに甘く、安全を十分に確保するものとなっていない。とくに発がん性が軽視されることが多い。農薬についても、毒性の見直しがほとんどなされないままで多くの有害な製品の大量散布が続けられている。たとえば最新の調査結果によれば、日本の農薬には発がん性を示すものが 40種以上、また催奇形性と生殖毒性を示すものがそれぞれ 30〜40種含まれている。

 

5 化学汚染の防止を目ざす当面(2008年まで)の課題

  人類だけでなくすべての生命にとってもその長い歴史の中でかつて経験したことのない現在の危機を克服するには、あらゆる化学商品の安全性を「ゆりかご(生産段階)から墓場(廃棄段階)まで」含めて徹底的に検証し、その利用を厳格に社会的な管理下におくことが不可欠であり、以下の具体的な実行が必要である。

国際がん研究機関(IARC)とアメリカ環境保護庁による発がん物質の指定を参考にして、生殖毒性物質、発生毒性物質、免疫毒性物質、内分泌かく乱物質および変異原物質についても、国際機関による指定制度を確立すること。

ヨーロッパ連合の「新化学物質戦略」(白書)と提携して、生産量が多い既存化学物質数千種のリスク評価を適切な国際協力体制の下で全面的に推進すること。なお、この評価に際して化学物質の子どもに対するリスクが格別に重視されなければならない。

日本政府は、リスクが高いことが知られている少なくとも数百種の化学物質の法規制(環境基準の設定など)を抜本的に強化すること。なお、規制に際して予防的アプローチの原則が十分に考慮されなければならない。

日本政府は、1980年以前に登録が開始された一連の農薬について毒性の評価を全面的に見直し、リスクが高いものの使用を禁止または厳しく制限すること。また残留基準や登録保留基準も大幅に改定(規制強化)すること。

ストックホルム条約を早期に発効させると共に、その対象物質をとりあえず 100種以上に拡大すること。また有害金属元素の使用を規制する新しい条約を締結すること。

  PRTRを含めて毒性・リスク情報の公開を強力に推進し、商品に含まれる化学成分の表示を完全に義務づけることによって市民の知る権利の確立を保障すること。

 

法的拘束力のある森林条約の締結を

1 進行する森林減少

 地球環境を保全し持続可能な発展を実現する、という地球サミットの国際合意は、この10年間ほとんど実行されなかった。とりわけ森林を保全し持続可能な森林経営を実現する、という森林に関する国際合意は最も実行されなかったものの1つである。

 熱帯林の減少・破壊・劣化はほとんど止まらず、ここ10年間で1億ヘクタール以上失われたと推測される。地域社会と地球生態系にもたらした損失は図りしれない。1960年頃には22億ヘクタール程存在し、世界の森林の6割程を占めていた熱帯林は、今や17億ヘクタールまで減少し、今後も毎年1千万ヘクタール、10年で1億ヘクタールのペースで減少しそうである。もしもこのペースが加速すれば今世紀中に熱帯林は絶滅すると危惧される。

 他の森林はどうか。面積は微増しているものの温帯林も北方林も劣化が進み、貴重な原生林の破壊が進んでいる。森林機能の低下や森林火災の多発、地球生態系への悪影響(生物多様性の低下や温暖化の加速)等が危惧される。

 

2 失われた10年―アジェンダ21の要請と不履行

 このような森林の減少・破壊・劣化が進むなかで、世界の国家や国際機関、企業、NGO、先住民等は地球サミット(森林原則声明とアジェンダ21森林減少対策)の実行主体としてどう実行してきたか。日本はどうか。

 結果的には世界の森林を良くするよりは悪化させる実行がなされてきたと言わざるを得ない。その原因や背景は直接的なものから根本的なものまで多々あるが、温暖化防止の国際合意の一定の前進と比べてみると、法的拘束力のない国際合意とその運営組織の弱体化が最大の原因と思われる。1995年からのIPF→IFF→UNFFという森林に関する政府間あるいは国連の組織はほとんど機能していない。IPCCが1990年より3回の報告書と1回の特別報告書を作成し、温暖化防止の法的拘束力のある実行を提言し警告して、条約・議定書交渉の前進に貴重な役割を果たしてきた成果に比べると、見るべき成果はほとんど何もない。実行されない実行を促す無責任な提言を繰り返すのみで、法的拘束力のある森林条約作りを諦めたかのようである。このような国際的実行体制は根本的に見直されるべきである。このような国際的実行体制は根本的に見直されるべきである。IPCCに匹敵する森林に関する国際組織が作られるべきであろう。

 その他の実行主体も一部には造林や緑化を行ってきたが、地球サミット森林合意目標の実行としては微々たるものである。特に日本は大量の外材輸入(国内消費量の8割余)により世界の森林問題に大きな悪影響を及ぼし、日本国内でも国内林業の極度の不振と森林の管理不足により、国内での実行もほとんど行っていない。

 地球サミットから10年、森林問題については全ての実行主体の不充分であり、とりわけIPFなどの国際組織の役割がまったく不充分であったと総括できよう。失われた10年との言葉は世界の森林問題にこそ当てはまる。

 

3 今後の課題と実行計画

 失われた10年と言わざるを得ない森林問題のここ10年間の深刻な経過をふまえて、今後の課題と行動計画を考えてみたい。これらは従来の説明責任や結果責任を伴わない安易なものであってはならない。何等かの責任や義務が伴うべきであり、そのためには法的拘束力のある森林条約を策定することが目指されなければならない。いかに困難であれ、この最高目標がまず確認され、達成されるべきである。その上で、次の諸点が実行されなければならない。

森林の減少・破壊・劣化の正確な実態の把握を行う。そのためにはFAOが過去に数回行った調査では不充分であることを反省して、より正確な科学的調査と研究を行う。

森林減少・破壊・劣化の根本原因、とくにここ10年間における根本原因を明らかにする。そのためには、従来の要因羅列的分析ではなく、構造的分析的な解明が必要であろう。とくにアメリカと多国籍企業が中心になって進めてきた経済のグローバリゼーションと政治の自由主義・規制緩和が、世界の森林とくに熱帯林とロシアの北方林の大規模な不法伐採をひきおこし、各国政府の国家規制力を著しく低下させ、政府間の国際会議や国連の機能を著しく低下させているのではないか、という問題の構造分析が最も重要と思われる。

森林の減少・破壊・劣化の動向については数値的に把握でき、従ってこれらの対策目標についても数値化できるものがある。今後は、できるだけ世界の森林対策の目標を数値化するとともに、数値化の困難なものは専門家の見解を重視する。いずれにしても、目標の実行が客観的かつ適切に評価できる目標を設定する。そのためには、従来の調査・研究・政策決定の仕組みでは不充分であるので、本格的なタスクホースを作り、諸組織を統合して作業を進めるべきである。

以上の基本的認識に基づき、現在準備されているヨハネスブルグサミット実施文書第43の森林対策の項目を、@IPCCに匹敵する国際組織を作り、A数値目標を設定し、B法的拘束力のある森林条約を作り、C各実行主体とくに国家の責任を明確にするという内容に改善すべきである。

 

永続可能な社会と市民/NGOの役割

1 永続可能な社会システムへの転換を

  現代社会では、自由競争原理のデメリットがいたるところに現れてきている。国家は、肥大化し多国籍企業化した企業と官僚の主導によって動かされ、国民がこれをコントロールすることが困難となっている。首相が変わっても、政党構図が変わっても、政治は変わらなくなっている。議会制民主主義は危機に瀕しているといわねばならない。また、各国の経済発展競争と経済のグローバリゼーションは、南北の格差を拡大し、環境問題においても地球規模での危機をもたらしている。

  こうした危機を回避するためには、政治や経済の現行のシステムを永続可能な社会・経済システムに転換しなければならない。永続可能な社会システムへの転換とは、政治的には中央集権・官僚指導から地方分権・市民/NGO中心に、経済的には高度成長・開発重視から低成長・環境重視に、ライフスタイルでは使い捨て・大量消費から3R(リダクション・リユース・リサイクル)に、エネルギーでは化石燃料・原子力から再生可能エネルギーに、転換することを意味している。

  そして、こうした永続可能な社会システムを実現する契機となるのが市民/NGOの活動である。永続可能な社会システムを実現するためには、より透明性があり、市民/NGOが政策決定過程に参加できるようなグローバルガバナンスが創出されなければならない。

 

2 リオ宣言及びアジェンダ21の要請と実行

   リオ宣言の第10原則は、「環境問題は、それぞれのレベルで、関心あるすべての市民が参加することにより最も適切に扱われる」とし、「国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意思決定過程に参加する機会を有しなくてはならない」としている。

  また、アジェンダ21の第27章「非政府組織の役割強化」は、「参加型民主主義の形成及び実行には、NGOが重要な役割を果たす」とし、「草の根運動と同様に、公式及び非公式な組織はアジェンダ21実行のパートナーとして認識されるべき」としている。

 しかし、リオ宣言やアジェンダ21のこうしたを要請は、十分には実行されていない。確かに、リオの準備過程ではNGOの参加が奨励され、リオを契機に多くの環境NGOが国連との協議的地位を得て、国連の会議に参加することが可能になった。国連持続可能な開発委員会(CSD)の会合は広く公開され、議長の許可を得れば発言もできるようになった。1998年からは、政府や国際機関と主要なグループの代表が直接意見交換を行う「利害関係者による対話(Multi‐Stakeholder Dialogue)」が行われるようになった。しかし、こうした機会でのNGOの提案が、政策決定にどのように反映されるかは明らかではなく、こうした参加をもって政策決定過程にNGOの意見が反映されるシステムが構築されたと評価することはできない。

  日本においては、リオ宣言やアジェンダ21の要請はほとんど無視されている。リオ後、日本においても実質的に政策決定の場となっている審議会が原則公開となり、審議会の報告書や主要な政策決定に際して、パブリックコメントが求められるようになった。しかし、審議会の委員にNGOの代表が選ばれることは稀であり、パブリックコメントについてもほとんどの場合NGOの意見は無視されている。ひどい場合は、パブリックコメントの提出期限前に政策決定がなされてしまうこともある。審議会は隠れ蓑で、実質は官僚がすべてをし切り、政策を決定している。

 

3 市民/NGOこそ主役

  国際的な環境問題の国家間の議論は、国益や利害にとらわれ、なかなか前に進まないことが多い。地球サミット以降、京都議定書、砂漠化防止条約、残留性有機汚染物質(POPs)に関する条約などいくつもの重要な国際環境条約が採択された。こうした環境条約の成立に環境NGOが大きな役割を果たした。また、こうした環境条約を有効に実行させるためにも、国益や利害にとらわれず、「地球市民」として考え、行動する市民/環境NGOの役割は大きい。

 国際環境の政策立案に関するNGOの活動の多くは、地球サミットを契機に始まった。その意味では、地球サミットは環境NGOの活動について画期的な出来事だったといってよい。アジェンダ21が、「主要グループ」の一つとしてNGOをあげ、その役割の重視性に着目しているのは、環境問題の政府間の取り決めを実効性あるものにするためには広範な市民の参加が不可欠であるとの認識からである。

 ヨハネスブルグサミットでは、会議が市民/NGOに公開され、その参加を保障するとともに、リオ以降のグローバルガバナンスを検証し、その反省にたって、より透明性があり、市民/NGOが政策決定過程に参加できるような民主的なグローバルガバナンスについての議論と合意がなされなければならない。ヨハネスブルグサミットの成功するかどうかは、市民/NGOに開かれたプロセスと、民主的なグローバルガバナンスに合意できるかにある。

 

4 地球環境ガバナンスと市民参加のための課題

国連環境理事会の設立と市民/環境NGOの政策決定参加の制度的保障

世界貿易機関(WTO)に対抗できる世界環境機関(WEO)の設立と市民/環境NGOの政策決定参加の制度的保障

国際環境条約の立法過程や環境政策の決定過程に市民/NGOを参画させるための資金的・制度的保障。とりわけ、発展途上国の市民/NGO参加のための資金的・制度的保障

国際環境条約の執行過程において、市民/NGOが各国の行動を監視し、不遵守国を告発する権利の制度化

開発行為だけでなく、貿易やODAなど、環境に関わるすべての活動についての永続可能な社会アセスメントの制度化と手続きへの市民/NGO参加の制度保障

国際環境裁判所の設立と世界の市民/NGOへの原告適格の承認